はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

迷子のヒナ 181 [迷子のヒナ]

とうとうジャスティンとヒナは結ばれた。
まだ先っぽがほんの少しめり込んだだけだが、二人が繋がっていることはもはや明々白々の事実だ。

ひとつ難があるとすれば――早朝かつ他人の屋敷という事を除いて――ヒナが小さくて、ジャスティンが大きいという事だけだ。

そう、ヒナは小さい。ジャスティンとの身長差は約三〇センチ。ヒナはこれから伸びると豪語しているが、いまのところまったくその気配はない。もちろん体格にも大きな違いがある。体重差はもちろんのこと、鍛えているジャスティンとふにゃふにゃのヒナとでは力の釣り合いが取れない。

「ヒナ、息をしてごらん」

呼吸も忘れ固まるヒナを見兼ねたジャスティンが堪らず声を掛ける。最初からすべてが上手くいくと思っていないが、経験者として――ヒナの側に立った事はないが――ヒナを導いてあげなければならない。

「ほら」と言って、顎先にキスをする。

ヒナは息を吹き返し、ジャスティンはこれ幸いと腰を押し出した。

「っあ……ジュスぅ」ヒナは声をあげ、ジャスティンの肩にしがみついた。その隙にジャスティンはもうひと突きする。「ひっ!」とヒナが息を呑む。ジャスティンはヒナの身体を覆いつくすように抱き、ふわふわの巻き毛に鼻を押し付け甘い香りをたっぷりと吸い込んだ。らせんを描くようにして深いところまで楔を打ち込むと、ヒナの濡れた目元を親指の腹で拭った。

ヒナ、平気か?そう尋ねようとした時、ヒナはこれまでで最高の笑顔を見せ「ヒナのもの」とジャスティンに向かって宣言した。

「最初から、ずーっとヒナのものだ。ヒナは俺のものか?」ジャスティンはそう言い、通常では考えられないほど恥ずかしいセリフをいとも容易く口にする自分に気付かない振りをした。

「うん」

ヒナは頷き、大胆にも両足をジャスティンの腰に巻きつけた。離れないぞという意思表示なのか、それともこれで行為が完結し、もう少しだけ余韻に浸りたいとでも思っているのか、苦しいはずなのに健気なものだ。

「ヒナ、少し足を緩めてくれると助かるんだが」やんわりと言い、腰を動かす了承を取り付けると、ジャスティンはわずかに腰を引いた。そのささやかな動きでさえ、ジャスティンのたがを外すには十分すぎるほどだった。

つづく


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迷子のヒナ 182 [迷子のヒナ]

あっ……あっ……あ――

部屋に響くヒナの声。

窓ガラスは二人の熱気で曇り、朝の光にベールを掛けている。もう夜は明けていた。階下では使用人が動き出している。そのうち階上にもあがってくる。いつヒナの喘ぎ声が使用人たちの耳に入らないとも限らないそんな状況下、二人はこのひとときをおおいに堪能していた。

まあ、もっぱらジャスティンが、だが。

本当はさっさと済ませてしまうのが二人にとっては最善なのだが、ジャスティンは何度も達しそうになりながら粘りに粘っていた。

「ああ、ヒナ……すごく、いい――」

恍惚状態のジャスティン。陶然としながらも腰をゆっくりと引き、強く打ち込む。ヒナのなかは熱く、ジャスティンを包み込むようにしっとりと濡れていた。初めてでここまで相性がぴったり合うとは想像もしていなかった。ずっと抱きたいと思っていたヒナが、我慢したかいのある――いや、それ以上の快感を与えてくれている。ヒナにも同じような感覚を味わわせたいのだが、いくらジャスティンがヒナよりも経験豊富だったとしても、さすがにそれは無理な話。

それでもヒナは、「ジュスも……ジュスも、すごくいいっ!」と言葉の意味もよく分からず返事をする。秘めたる場所を行き来するジャスティンのこわばり。圧迫感に胃から何かが飛び出そうになっていたが、のどごしのいいゼリーのようになめらかに滑るそれに、初めてとはいえヒナの性感帯は否が応でも刺激されていた。

だからヒナの言葉に嘘はない。そしてその言葉にジャスティンの興奮は一気に高まり、理性を保つのも限界に達した。

「ヒナ、しがみついているんだぞ」そう言うが早いか、長くゆったりとしたストロークから、早く小刻みなストロークへと変化させ、ジャスティンはただゴールを目指して突っ走った。
ヒナはガクガクと揺さぶられ、体内をこれでもかというほど掻き乱され、嗚咽に近い喘ぎ声を上げる。ジャスティンはキスで口を封じるだけの余裕もないほど、ヒナの身体に狂わされていた。頭では警告が鳴り響いていたが、強く抱いたヒナの口元に肩を押し当てるだけで精一杯だった。

そしてその肩をヒナに噛みつかれた瞬間、ジャスティンは絶頂を迎えた。

つづく


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迷子のヒナ 183 [迷子のヒナ]

大変なことになった。

ウェインは主人の部屋の外で蒼ざめていた。あとからのこのことやって来たダンを見つけ、慌てて駆けだす。間抜けな近侍が部屋のドアに手を掛ける寸前、ウェインはダンを廊下のずっと向こうまで引きずって行くことに成功した。

「な、なに?」戸惑うばかりのダン。多少眠たそうにしているが、お洒落にはうるさいだけあって身なりは完璧だ。

「部屋には入れない」ウェインは厳しい顔つきで告げた。

「入れるさ」と呑気に応じるダン。ウェインを押し退けヒナの部屋に向かおうとする。

ウェインはダンの腕を掴み引き留める。「入れない。鍵が掛かっている」

「鍵?おかしいな、ヒナは部屋に鍵なんか掛けたりしないけど」ダンは首をひねった。

「たぶん、鍵を掛けたのはヒナじゃない。旦那様だ」

「どうして旦那様が?」ダンが尋ねる。

「ヒナの部屋にいるからに決まってるだろう!」多くを言わずとも状況を悟ってくれと、期待を込めて言う。

「いつもの事じゃないか」

「声が聞こえた」

「声?もう起きてるんだろう。ヒナは早起きだからね。そのぶん昼寝をするからかな」ダンはおもしろおかしく言って、くすくすと笑った。

「笑い事じゃない」ぴしゃりと言う。「旦那様の部屋には鍵は掛かっていないけど、ヒナの部屋に続くドアには鍵が掛かっていた。それから、居間のテーブルには呼ぶまで来るなと書き置きが……」そこまで言って、ようやくダンも顔色を変えた。「まさか、だって……旦那様とヒナとでは――ああ、嘘だよね?」

ウェインは一度部屋へ入っていたのだ。
ジャスティンの泊まっている部屋は続き部屋で、居間を挟んで両側が寝室となっている。最初は書置きに気付かなかった。寝室へ入ると、寝た形跡もなく、もちろん主人もいなかった。ダンの言う通り、いつものことで、ヒナと一緒に寝ることにしたのだと思った。

そして、ヒナの部屋のドアに近づいた時、聞いてはいけない声を聞いた。
まさにそれは、主人とヒナが、いたしている声だった。

血の気が一気に引いた。
なぜここでという疑問も頭をかすめた。

だがとにかく今すぐにここから逃げ出すべきだと本能が告げた。

ウェインは踵を返した。
その時、高価なテーブルの上にぞんざいに置かれた紙片に気付いたのだ。

手に取って視線を走らせ、すぐさま部屋を出た。呆然と立ち尽くし、この状況をどうやって切り抜けるべきか頭を働かせた。

だって、このままにはしておけないじゃないか!もしも自分たち以外の誰かに二人のしていることがばれたら――

普段はのんびり構えているウェインだが、いざという時にはさすがはジャスティンの近侍ともいうべき能力を発揮する。とにかく何があろうとも、主人とヒナにいつもと同じ朝を迎えさせなければならない。そのために出来ることは……。

「ダン、旦那様の部屋に湯を運んでくれ。誰にも手伝わせるなよ。言うまでもないが、こっちの棟には誰も近づけるな」

「なんだよえらそうに」ぶつくさこぼしながら、ダンは階下へ向かった。どちらにせよヒナの部屋に入れないのでは仕事のしようがない。

ウェインはダンの恨み言を聞き流し、まずは暖炉の火を起こすことに取り掛かった。いくら主人が汗だくだったとしても、今朝は霜が降りるほど冷え込んでいるのだ。
暖炉に火が入っていないと当然怪しまれる。

それに僕だって、寒くて凍えそうだ!

ウェインはひとり、そうぼやいた。

つづく


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迷子のヒナ 184 [迷子のヒナ]

ヒナの身体を壊しそうな勢いでクライマックスを迎えたジャスティンだが、噛みつかれたおかげでわずかながら理性らしきものが戻り、かろうじてヒナの体内に欲望を吐き出さずに済んだ。

汚れたシーツは優秀な近侍が何とかするだろうと、楽観視しながら、ジャスティンはヒナの横に身体を横たえた。

こんなに充実したのはいつ以来だろうか?
長い息を吐き、しばし余韻に浸る。あまりの鮮烈な快感に、我を失うどころかもはやあの世へ行ってしまったのではと思う程だ。

ヒナは突然終わりを告げられ、戸惑っていたが、のそのそと身体を動かし、ジャスティンにぴたりと寄り添った。

その仕草にジャスティンのなかに恐ろしいほどの罪悪感が芽生えた。あの世とは地獄だったようだ。
こんなに愛しくてたまらないのに、気が触れたようにヒナを抱いた。いや、犯したも同然だ。

「ヒナ、大丈夫か?」ジャスティンは、やっとこの言葉を口にした。

随分とかかったものだ。ヒナの身体を第一に考えるべき者が、自らの欲望を優先して、愛するものをないがしろにするなど言語道断。ヒナを抱く資格などありはしない。と、断罪されてもおかしくはなかったが、ヒナは微笑んで、それから頷いた。

ヒナが無理をしているのは一目瞭然。
眉間には深い皺が刻み込まれ、苦痛にぎゅっと目を閉じていたのが伺える。しかも涙で目元は赤らみ、微笑んだ口元もぎこちなさを隠せていなかった。

「痛かったか?」

「痛くない」ヒナは閉じた足をもじもじとさせ、股間に手を置いて問題の部分を隠した。

今度こそヒナの言葉を鵜呑みにするわけにはいかなかった。

「見せてみなさい」

ジャスティンに偉そうに命令する権利などないのだが、従順なるヒナは即座に膝を立て開脚した。そのいやらしいことといったら、ジャスティンがもう一度ヒナに圧し掛かりそうになるのも無理からぬ話。だが擦れて真っ赤になったヒナの秘孔を目にして、そのような愚行に走ろうなどという思いは一瞬にして霧散した。

ジャスティンはクソッと小さく悪態を吐き、ヒナの足をゆっくりと閉じた。

「どう?」ヒナが不安そうに小声で尋ねた。

どうもこうもない!

「よく頑張ったな」それ以上の言葉は見つからなかった。

つづく


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迷子のヒナ 185 [迷子のヒナ]

よく頑張ったなと褒めてくれたジャスティン。

ヒナは嬉しいやら照れくさいやらで、えへへと笑った。

するとジャスティンはヒナの足を開いて、またあそこの様子を伺った。

ううん、違った。ジュスは……ジュスは、ヒナの、ヒナのあれを口の中にっ!!

これも親密な行為なの?まだ終わってなかったんだ!

ああっ!すごく気持ちいい。

ヒナは腰を突き出した。お尻はズキンズキンと疼いているが、それはとても心地よい疼きだった。そこにジャスティンがいたのだという証拠だから。

ジャスティンが今日という日を選んでくれてよかった。
ヒナにとってはとても大切な日で、お父さんとお母さんに感謝する日でもあったから。

「ジュス、これは?……なに?ご褒美?」

少し間があり、「ああ、そうだ。ご褒美だ」と聞こえた。なぜかジャスティンは笑っている。

なにがそんなにおかしいのだろうと、ヒナは頭を持ち上げ、足の間に入りこんでいるジャスティンを見やった。

「ゃあんっ!」

ジャスティンの顔を伺うことなく、ヒナはすぐさま仰け反ることとなった。ジャスティンがこわばりの根元から先端に向けて舌を這わせたからだ。こんなふうに舐められるなんて想像もしていなかった。前回ふたりで親密な行為をした時は、触るだけだったのに。

「ヒナ、声は出すな」ジャスティンはひそひそ声で言い、頂から溢れ出た雫を跡形もなく舐めとった。

「ひゃっ――」

とっさにヒナは口を両手で覆ったが、一歩及ばず。けれどその後の声はきっちり封じ込めた。

“リトル・ヒナ”はジャスティンのなすがままだった。与えられるものはすべて受け取るといった様子で、ジャスティンの舌や唇の動きに興奮しきりだ。足の指先まで痺れるような快感に、ついつい声を抑え込む手が緩みそうになる。

もはやお尻のヒリヒリとする感覚もなくなり、なぜかそこがうずうずとし、触って欲しくてたまらなくなった。

だがヒナにしては珍しく、恥ずかしさが先行し、その思いを口にすることは出来なかった。というよりも、口元でもごもごと呟いているうちに、つま先から頭のてっぺんまで瞬時に電流のような快感が突き抜け、思考が一切遮断されたからだ。

ヒナは両足でジャスティンの肩をぎゅっと押しやり、奔流のように襲ってくる快楽の極みに身を委ねた。

その時ジャスティンは呻き声のようなものを発したが、ヒナの耳にはもはや届くはずもなかった。

ヒナはジャスティンの口の中に精を放っているのを感じながら、これまでで最高の喜びを味わっていた。それはきっとジャスティンがヒナのすべてを受けとめてくれたからに他ならない。

幸せな一日の始まりに相応しい朝だった。

つづく


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迷子のヒナ 186 [迷子のヒナ]

噛まれた肩がズキズキと痛んだ。
噛まれただけならまだしも、足の裏で踏みつけにされた。拷問さながらの仕打ちに、本来なら腹を立ててもいいところだが……なにせ相手はヒナだ。しかも悦びの声を抑えるため仕方なくしたことだ。こちらとしては傷が疼くたびに顔が綻び、下半身が張り詰めてしまう。これも仕方のない事だ。

さて、これからどうしたものか。

ジャスティンはうとうとしかけているヒナを腕に抱き、起き上がるタイミングをうかがっていた。これが自分の屋敷なら気のすむまでベッドで過ごすところだが、残念ながらここはニコラの屋敷。しかもジャスティンとヒナを引き離そうと画策する、兄グレゴリーもいるのだ。朝食はパスするとしても、いつまでもベッドにいるわけにはいかない。

ヒナがふわぁとあくびをした。ぎゅっとまるまり、満足げな顔が蜜色の巻き毛に隠れた。

「ヒナ、起きるぞ。寝るな」いま眠られては困る。この状況の後始末をしなければならないし、なによりヒナの身体を綺麗にしてやらなければならない。ダンに熱い湯とタオルを持って来させよう。

ジャスティンはヒナもろとも起き上がったが、ヒナは首の座らない赤子のようにぐにゃりと頭を仰け反らせた。

まさか寝たのか?たったいまあくびをしたばかりなのにか?まったく。呆れてものも言えないとはこのことだ。まあ、ヒナの場合よくあることだが。

ジャスティンはヒナをベッドに残し、ひとまず自分の部屋へ戻った。

居間には誰もいなかったが、暖炉には火が入れられ、残しておいたメモも消えていた。部屋の片隅には、昨夜はなかった衝立が置かれている。

いったいなんだ?とその向こうを覗こうとした時、寝室からウェインが現れた。

「だ、旦那様!化粧着くらい羽織ったらどうですかっ!」ウェインは裸の主人に苦い顔を向け、手に持っていたタオルを衝立の傍のワゴンに置いた。

うるさい。生意気にも主人に命令する気か?「着て欲しければ手の届く場所に置いておけ」と理不尽な答えを返し裸の男はふてぶてしい態度で寝室へ向かう。

「旦那様、着替えならここです」妙に居丈高な調子で呼び止められ、ジャスティンは不機嫌さ全開でウェインを睨みつけた。

ウェインは特に気にするふうでもなく、「そういえばヒナはどうしていますか?ダンが部屋に入れず困っていますが」と主人をたじろがせる一言を発する。「それから、お風呂の支度をしておきましたので――」語尾を濁し、タオルと着替えの存在を見せつけた。

ここまでくればジャスティンとて開き直る。
ウェインはジャスティンとヒナが、隣の部屋で何をしていたのか承知しているのだ。

「ヒナをこっちに連れてくる」

その一言で、ウェインは自分がなすべき事を察したようだ。

つまりは、ジャスティンとヒナが仲良くお風呂に入っている間に、二人の近侍で後始末をつけろという事だ。はたしてこの屋敷の使用人に気付かれずに、汚れたシーツを片づけることが出来るのだろうか?

つづく


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迷子のヒナ 187 [迷子のヒナ]

ウェインは近侍として初めて自分を褒めてやりたいと思った。

突如、裸で現れた主人に動じることもなく――もちろん、普段見慣れているから動じるはずもないのだが――近侍として、主人にあるべき姿に――ああ、それはもちろん、その身分に相応しい衣服を身にまとい、場合によっては装飾品も身に着けて――なっていただくべく動いた。

ああっ!僕は何をまどろっこしいことを考えているんだ。

動じないはずないじゃないかっ!

あるべき姿だって?服を着ろ!それだけだ。

こういう場合、普通の主人に仕える近侍はどうしているのだろうか?別に旦那様が普通ではないとかそういう事ではないのだが、世間一般の近侍が遭遇する場面はおそらく、大抵において相手は女性だ。
男同士のあれこれに免疫がないわけではない。近侍になる以前はクラブで働いていた訳だし。
問題なのは相手がヒナだという事だ。

ヒナが旦那様を好いているのは周知の事実。その逆も然り。旦那様はこれまでヒナとそういう関係になるのは避けてこられた。それが変わってしまったのは、やはりヒナが伯爵の孫だと判明したからだろう。

おっと、旦那様がヒナを抱いて戻って来られた。荷物のように肩に担がれているヒナのお尻に自然と目がいってしまう。くそっ!見てはダメだ。

そう思って目を逸らしたとき、ウェインはジャスティンの左肩に紫色に鬱血した部分を発見した。よくよく目を凝らすと、どうやらそれは噛み痕のようだ。うっすら血が滲んでいるし、なぜさっきは気付かなかったのか不思議だ。

「なんだ、まだいたのか」

さっさと出て行けと冷たい視線を浴びせられたウェインだが、それとなく――いや、思い切って肩の傷について触れてみた。

「その肩、どうされたのですか?」

ちらりと自らの肩を一瞥したジャスティンは「見ればわかるだろ。ヒナに拷問されたんだ」と言って、衝立の向こうへと消えた。

拷問!!ヒナに?

ああ、いったいどんなプレイを?ダメだダメだ。ヒナと旦那様のあれこれを想像しては。

ウェインは目をぎゅっと閉じ、猛然とかぶりをふった。

ここは旦那様の仰る通り、さっさと部屋を出て行くに限る。

向こうの部屋へ行けばもっとよからぬ想像をしてしまうとは露ほども思わず、ウェインはきびきびとした足取りでヒナの部屋に足を踏み入れた。

つづく


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迷子のヒナ 188 [迷子のヒナ]

すったもんだのすえにジャスティンとヒナは朝食にありつくために、午前十時をまわってやっと食堂へおりた。さすがにもう誰もいないはずだと油断していたのがいけなかったのか、なぜか居残っていたニコラと席を同じくすることになってしまった。

「グレッグは書斎よ。やることが山ほどあるんですって」ニコラは不満たっぷりに言ったが、どうやらジャスティンが兄を避けて遅れて朝食へやって来たと誤解したようだ。

なにはともあれ、変に勘ぐられずに済んでよかった。

ジャスティンは冷や汗を額に滲ませ、ニコラの視線からはずれるように末席に腰を落ち着けた。ヒナは堂々たる態度でニコラの正面に座った。

当然ジャスティンは昼食まではのんびり部屋で過ごそうと提案した。食事は部屋へ運んでもらえばすむし、それについての言い訳も二,三考えついていた。けれどもヒナはとにかく部屋から出ると言ってきかなかった。どうやら、いまさらながら二人きりが恥ずかしかったようだ。一緒にお風呂にまで入ったというのに!まったく。

「あら、いやだ」
ニコラが突如声をあげ、飲みかけの紅茶のカップをカチャンと音を立ててソーサーに戻した。

ドッキーン!!

“いたした”ばかりのヒナとジャスティンの心臓が同時に跳ねた。

ニコラはいったい何に気付いたのだろうかと、ヒナはどぎまぎしながら、ふわふわのはちみつパンにかぶりついた。ジャスティンはテーブルの傷を数えるのに必死な振りをした。

前を見据えニコラは重々しい口調でジャスティンに尋ねた。

「ねえ、ジャスティン。今日は四月二十二日ではないかしら?」

もちろん、今日は四月二十二日で間違いない。

「ええ、そうですが――」とジャスティン。

「まあ、大変!」

「どうしたの?ニコ」ヒナは目の前の皿を避けながら、身を乗り出し尋ねた。

借りてきた猫のようにおとなしくなっていたヒナも、疼く好奇心を抑えることは出来なかったようだ。

「どうしたのじゃないわよ、ヒナ。何か忘れていない?」不敵な笑みを浮かべるニコラ。

ヒナは目玉をクルクルまわし、それから身体をねじって自分のお尻を見おろした。

そこは絶対違うっ!とジャスティンは胸の内で叫んだ。とはいえ、いったいヒナが忘れている事とはなんなのだろうか?

「忘れてない。顔も洗ったし、えっと……」ニコラの視線を一身に浴び、ヒナはとうとう顔を真っ赤に染めた。

「ジャスティンは?何か忘れていない?」ニコラは目を細め咎めるような視線をジャスティンに向けた。

ジャスティンは顔を真っ赤にはしなかったが、蒼ざめたことは間違いない。何を忘れているのかさっぱり思い出せない。

「なんでしょうか?」とそろそろと問う。

ニコラは緑色の瞳を大きく見開いた。信じがたいとでも言いたげに大袈裟に首を振って、それから言った。

「今日はヒナの誕生日でしょう!」

つづく


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迷子のヒナ 189 [迷子のヒナ]

なんだって?今日、四月二十二日がヒナの誕生日?

「そうなのか?」ジャスティンは俯くヒナの顔を覗き込むようにして、こわごわ尋ねた。うっかり忘れていたとしても、うっかりし過ぎだ。もちろん、尋ねなかったジャスティンが悪いのだが。

これまで誕生日を気にしたことがなかった、というわけではない。ヒナが身元を明かそうとしなかったし、そもそも生まれた日がそれほど重要だとジャスティン自身思ったことがなかったのだ。

出会った時、ヒナは十二歳だと教えてくれた。それから三年。当然十五歳になっていると思っていた。それがヒナを抱く数時間前だったとは思いもしなかった。もう一日、いやたった数時間、決行が早かったなら、ヒナは十四歳だった!わずかな違いだし、行為自体一般的な道理から外れてはいるが、それでも十四歳はダメだ。ああ、危なかった。

ヒナは恥ずかしげにこくんと頷いた。うっかりしていたというよりも、いまさら打ち明けられなかったといった面持ちだ。

「あなた知らなかったの?」ニコラはもはや怒っていた。あなた父親として失格よ!と親権を奪いかねない形相だ。

「いや……」と言ったものの、適切な言い訳は思いつけなかった。ニコラ相手に口で勝てると思えなかったし、もちろん口以外でも勝てるとは思えなかった。

なにせジャスティンがこれまでずっと恐れていた兄でさえ、ニコラの前では子猫同然だったのだから、その弟が勝てるはずない。

「わたしもうっかりしていたわ。ヒナに時計を見せられた時に気付くべきだったのに。まあ、いいわ。今夜はヒナの誕生日パーティーよ。ああ、バックス、いいところへ来たわ。ひとまず熱い紅茶をちょうだい。それからパーティーの打ち合わせよ。もう、わくわくするわ。久しぶりなのよ、うちで催しをするのは」

興奮気味のニコラに意見できるものなどいるのだろうか?
三人の男は三者三様の表情を浮かべていたが、おそらく胸の内は同じだっただろう。支度が間に合うのかと気遣わしげなバックスをジャスティンは憐みを込めて見やった。

ニコラの女主人たる手腕は社交界でも一位二位を争う。そんなニコラがパーティーを開くと言うのだから、この村で最大の催しになること間違いなしだ。

こんな状況でなければ、ジャスティンももろ手を上げて賛成しただろう。むろん反対は出来ないが、ヒナの今後に支障が出なければいいがと思わずにはいられなかった。

「ヒナ、ココア飲みたい」

ヒナはさほど深くは考えていないようだ。

つづく


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迷子のヒナ 190 [迷子のヒナ]

「今日、ヒナ、誕生日なの」

グレゴリーは顔を上げた。もちろんすぐ傍で急に声がしたからだ。顔を上げた先に声の主はいなかったが、すぐ左隣、書斎机に手を置いて、ヒナがこちらを見上げていた。

近いっ!!しかも勝手に椅子を引き寄せて座っているではないか!

グレゴリーは不快感を示す最小限の仕草で――眉間に皺を寄せた――半ば睨みつけたが、ヒナは意に介さず、至近距離でグレゴリーが何か言うのを待っている。

もしかしてこの子はプレゼントをねだっているのだろうか?両親はすでにいないわけだし、親代わりだと豪語するジャスティンがこの子にプレゼントを準備していたとは思えない。となると、こうやって誰彼かまわずねだるのも無理ない話だ。だが、ねだる相手を間違えたようだ。

グレゴリーは椅子の上で出来るだけヒナから遠ざかると、「そうか」とそっけなく答えた。

グレゴリーもジャスティンと一緒で自分の誕生日など気にしない部類の人間だ。誕生日というものは社交的な行事、という認識しかない。

「ニコがパーティーだって」

ニコがパーティー?

「それは、ニコラがパーティーを開くという意味かな?ヒナ」

「そうだけど?」

「ここで?」グレゴリーは眉を上げた。

「知らない」と意外に素っ気ないヒナ。

この子はいつもこうだ。(昨日会ったばかりだが)「いい加減だな。その情報は確かなのか?」

「わくわくしてたよ」

「わくわく……?」それはまずいな。ニコラはやる気だ。あれは自分が妊娠中だという事を忘れているのではないか?おとなしくしているためにわざわざここへ来たのだろうに。夫を置き去りにして。

不満だ。

とにかく阻止しなければ。

「それで、ヒナはそれを伝えに来たのか?」

「これ、ニコに貰ったの」

ヒナはポケットから懐中時計を取り出し、グレゴリーに突きつけた。

グレゴリーはぐるりと目を回した。この子は自分の言いたい事を優先して、人の話をまったく聞かない。出会った当初から認識していたとはいえ、こうも何度も無視されると注意する気すら失せる。
それにしてもわが妻はなぜいまになってパーティーを開くなどと言い出したのだろうか?プレゼントを前もって準備していたのだから、当然――

そこでグレゴリーは重要なことに気付いた。

ヒナの手にしている時計は、数年前自分が頼まれて買ったものに違いない。確か……そう、裏にはこの子の名前が彫ってあるのだ。

注文したのはニコラで、自分は店に取りに行っただけだったが、この時少しニコラともめたのを覚えている。

「チェーンはジュスが買ってくれた」とヒナが付け加える。とても大切にしているんだと主張しているのだろうが、社交辞令やお世辞を使わないヒナだけに、その思いがストレートに伝わってきた。

とはいえ、こうやってアピールするのはやはりプレゼントを要求されていると思うべきなのだろう。欲がなさそうに見えて、案外欲深いのかもしれない。

だがグレゴリーには子供の欲しがるものなど見当もつかなかった。
息子たちへのプレゼントはニコラに一任しているし、自分がヒナと同じ歳の頃に貰ったものといえば、駿馬だったり、バイオリンだったり、書棚を埋め尽くすほどの書籍だったりと、いかにもヒナには無縁といったものばかりだった。

いや、本に関しては無縁とは言えないかもしれない。なにせヒナと出会ったのは図書室だ。子供が読むには相応しくないものを手にしていたが、本を読むこと自体好きなのかもしれない。だとすると、本を贈ってみるのも悪くはない。

だとしても、パーティーはダメだ。
ニコラは静養するためにここにいるのだ。愚弟と勝手気ままなヒナが滞在しているだけでも大きな負担だというのに、これ以上の厄介ごとは夫としては見過ごせない。

グレゴリーはすでに書き終わっている手紙に封をすると、まったく動こうとしないヒナを置いて立ち上がった。

「レゴ、どこ行くの?」

「手紙を出しに行く」

「ヒナも行く」

なぜこの子はわたしについてくるのだ?保護者はジャスティンだろう?

「ジャスティンはどこだ?」

「ニコのおつかい」

おつかい?ジャスティンが使いに出たと?この屋敷にだって使用人はいるだろうに、またどうして?とヒナに問うても意味はないと分かっているので、グレゴリーは諦め気分で呟いた。

「ほんのすぐそこまでだ」ついて来る意味もないほどにな。

つづく


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